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特別対談「がん教育」で変わる日本の未来 (下)

林 和彦(東京女子医科大学がんセンター長)×小林豊茂(東京都豊島区立明豊中学校校長)

「がん教育」を、これまでそれぞれの立場で力強く推進してきた東京女子医科大学がんセンター長の林和彦医師と、東京都豊島区立明豊中学校の小林豊茂校長の特別対談。㊤㊥の2回の内容には、大きな反響がありました。最終回となる㊦では、これまでの語らいを踏まえ、がん教育で変わる日本の未来を展望します。

hayasikazuhiko2 東京女子医科大学がんセンター長
林 和彦
はやし・かずひこ●1961年、東京都生まれ。医学博士。東京女子医科大学化学療法・緩和ケア科教授、がんセンター長。2014年に特別支援学校自立教科教諭一種免許状、2017年に中高の保健科教諭一種免許状を取得。著書に『子どもと一緒に知る「がん」になるってどんなこと?』(セブン&アイ出版)など。
kobayasi2 東京都豊島区立明豊中学校校長
小林 豊茂
こばやし・とよしげ●1961年、東京都生まれ。2014年4月、豊島区立明豊中学校に校長として赴任。学校として「がん教育」に取り組むなか、2016年夏に自身にステージ4の肺がんが見つかり、現在も治療を継続している。全国新聞教育研究協議会会長。
 

3年後に全国の小学校で「がん教育」が始まる

――国はがん教育の全国展開を目指していますが、実現させるためには何が大事でしょうか。
 文部科学省は、小学校は平成32年度、中学校は平成33年度、高等学校では平成34年度から全国で完全実施するといっています。NHKの朝の情報番組『あさイチ』では、がん教育について伝える効果はありました(*)。今後は、全国展開するための仕組み作りが急がれます。
小林 テレビの影響はすごいですね。放送後、私のところに何件も問い合わせがあり、そのなかには、私への講演依頼もありました。生徒と先生のなかにがんで闘病中の方がいて、がんを抱えながら頑張っている方の話を聞かせたいということでしたね。
 それはいいですね。先生の生き方を多くの人に知っていただきたいと思う私にとっても、うれしい話です。がん患者やがん専門医の話を直接聞く意義は大きいですね。ただ先生や私が、全国を飛び回って授業をすることは不可能です。私たちと志を同じくする方の数にも限りがありますから、「同じ思いでがん教育に取り組んでくれる医療者や先生を増やしていかなくては」と思っています。
 とはいえ、全国の学校で普遍的な授業をするためには、個別の対応では到底間に合いません。外部講師と学校側の連携を円滑にする等の工夫が求められます。
小林 東京都は、学校と医療の現場を結び、がん教育を積極的に進めていくために、医師会、学校保健会、行政関係者による「がん教育推進協議会」を設置しました。
 先生向けの研修、校医と専門医の勉強会などの学校支援も重要になってきます。また、専門医などの講師を呼ぶのが難しい地域では、テレビ会議システムなどを活用した遠隔授業や、映像データの利用なども考えていく必要があると思います。
――中学校の次期学習指導要領の保健分野に、がんについての1文が入りました。
小林 1つの疾患の名前が載ったのは1998年のエイズ以来。20年ぶりの画期的なことです。
 「健康な生活と疾病の予防」のなかで、他の生活習慣病と同様に「がんについても取り扱うものとする」と明記されました。このことで、今後の保健の教科書では、がんについて必ず取り上げることになります。さらに高等学校の次期学習指導要領にも明記される見通しで、がん教育の強い後押しになります。

「がん教育」は「意識を高める教育」

小林 防災教育や人権教育と同様に、がん教育も「知識を得ればそれでおしまい」というものではなく、意識を高めていくことが必要な教育です。中学生のときに「たばこは絶対吸わない」と決めたとして、法律的に喫煙を許される年齢になったときに、それでも「吸わない」と思う、そのための教育なのです。この意識をもつためには、何度も学ぶ必要があります。
 脳の発達段階に合わせて、繰り返し伝えること、学ぶことが必要ということですね。“意識を高める教育”ですか。講演で使わせていただきます(笑)。
 今年もさまざまな医療関係の学会に参加していますが、うれしいことに、明らかにがん教育に対する関心、意識が変わってきていることを感じています。この追い風を逃さず、質の高いがん教育を届けられるようにしたいと考えています。
小林 私の役割は学校現場の改革だと思っています。ですから、ほかのどの教師よりも声を大にして、がん教育の重要性を訴えていきたいですね。
 子どもたちの未来のために、協力しあって、できる限りのことをしていきましょう。

*2017年7月26日の放送「親子で知ろう! がんのこと」では、林先生は専門家としてスタジオに、小林校長は明豊中学校の公開講座の紹介でVTR出演した。

奇跡の犬、ウィル_cover(元)
林和彦先生の著作
子どもと一緒に知る「がん」になるってどんなこと?
 
がんを知るための本として、絶好の教材となる1冊。知識や情報がわかりやすく説明されているだけでなく、子どもの視点と患者さん本人の視点から書かれた「3つの実話」を通して、気持ちも理解できるように工夫されている。
 
セブン&アイ出版
1400円+税 好評発売中
 
 

☆月刊誌『灯台』2017年12月号より転載