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家庭教育の変遷からいまを見つめ、未来を展望する

教育評論家
親野智可等

創刊55周年を迎えた『灯台』は、一貫して家庭教育の重要性を訴え続けてきました。この間、家庭教育は、どのような変遷をたどってきたのでしょうか。

戦前の教育を引きずる伝統的なしつけ教育

 約半世紀前の日本は高度経済成長期で、専業主婦が増え、貧富の格差が減り、「1億総中流」という言葉も生まれました。これに伴い教育にお金をかける家庭も増え、高校や大学への進学率も高まっていきました。
 そうしたなか、家庭ではまだ戦前の伝統的なしつけ教育を引きずっていました。それはたとえば、人様に後ろ指をさされない子、人や社会に迷惑をかけない子へ育てることに重きが置かれ、そのためには体罰や恐怖感で従わせるなどの厳しいしつけが、当たり前のように行なわれていたのです。
 一方でこのころから、理数教育の重要性が唱えられるようにもなっていきました。これは、「スプートニクショック」の影響といわれています。1957年に当時のソ連が人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功し、アメリカや西側諸国に衝撃を与え、日本でも科学立国が盛んに叫ばれるようになったのです。
 また、アメリカの小児科医ベンジャミン・スポックが著し、科学的育児書として世界的ベストセラーとなった『スポック博士の育児書』が66年に日本でも翻訳され、これも多くの人に影響を与えました。この本では、赤ちゃんが泣いても抱き癖がつくので抱っこはダメ、添い寝もダメ、赤ちゃんが求めても定時まで授乳はしないこと、などが提唱されていました。しかし、これらは後の研究で否定され、むしろ対人関係を上手く築けないなどの弊害があることが今日では知られています。

心理学の発達によるしつけの見直し

 時代が進み、心理学の発達も家庭教育に影響を与えました。なかでも、医師であり児童心理学者であった平井信義先生が84年に著した『「心の基地」はおかあさん―やる気と思いやりを育てる親子実例集』は、約140万部の大ベストセラーとなり大きな影響を与えました。
 平井先生は科学的研究によって、いきすぎたしつけや𠮟りすぎが子どもを抑圧し、自発性を損なわせることなどを解き明かし、しつけや𠮟るのをやめようと提唱されました。そして、本当にいい子とは、自発的でやる気に溢れた子であり、いたずらのようなことも含めて、やりたいことをやっている子であるといわれたのです。
 こういう子は親を困らせることが多いものの、やる気に溢れた立派な大人に成長します。平井先生のこの研究は、それまでの「しつけ主義」と真逆であり、世間に大きな衝撃を与えつつ、子育ての方向性も大きく変えていきました。平井先生の新たな提唱により、どれだけ多くの親子が救われたことでしょうか。

バブル崩壊後の二極化、求められる人材の変化

 社会環境の変化は、家庭環境へも波及します。91年から93年にかけて起こったバブル経済の崩壊は、家庭へも大きな影を落としました。不景気により共働きが増え、経済格差も広がりました。「勝ち組」「負け組」という言葉も流行し始め、家庭における教育でも、それに熱心な家庭と、生活だけで精一杯の家庭の、二極化が進みました。
 教育熱心な家庭では、わが子を勝ち組にしたいという親の思いから、子どもが希望していなくても中学受験をさせたり、進学塾へ通わせたりするケースが増えました。また、習い事をする子も増加していきました。
 その結果、親や先生にいわれたことは頑張れても、自分では課題を見つけられないという子が増えました。こういった人材は高度経済成長期にはよかったのですが、バブル崩壊以降は求められる人材も徐々に移り変わり、いまとなっては、斬新な企画を出し、イノベーション(変革、革新)を起こせるような人が求められるようになっているのです。
 イノベーションを起こすような人は、いわれたことだけをやってきた子どものなかからは育ちづらいものです。私は、「自分のやりたいことをたっぷりやらせてもらえた子こそが、大人になってもやりたいことを自分で見つけられる。そして、自己実現力や課題設定能力も身につけた人へと育っていけるのだ」と思っています。
 たとえば欧米諸国では、宿題のない長期間の夏休みがある等、子どもがやりたいことを十分やれる時間が保障されています。
 私たち大人は、日本の子どもたちのために、「ワーク・ライフ・バランス」ならぬ〝スタディ・ライフ・バランス〟を、もっと考えていく必要があるのではないでしょうか。

歴史を振り返り、いまを見つめる

 未来を見つめたときに、前述したような二極化がさらに進む可能性があります。でも、現状を嘆いてばかりいるのではなく、まずは私たち個人レベルでできることを、子どもたちのためにもやっていく必要があります。
 その1つが、「歴史を知り、大局的な観点で振り返ること」です。歴史を知らないと、いまの姿をすべて当たり前のことと思ってしまったり、自分の考えだけが正しいと思い込んでしまったりする可能性があります。しかし大きな流れで見れば、〝いまの当たり前は一時的な流れかもしれませんし、別の考え方もあるのでは〟と、多角的に見ることができるのです。
 自分や子どもにとって何が大事なのか。子どもにどういう人生を歩んでほしいのか。ぜひ今回の私の記事を契機に、話し相手を否定しないことに気をつけながら、ご夫婦、ご家族で話し合ってほしいと思います。

☆月刊誌『灯台』2017年10月号より転載


親野智可等 おやの・ちから●1958年生まれ。公立小学校で23年間教師を務める。その経験をメールマガジン「親力で決まる子供の将来」として発行。多くの評判を呼び、読者数は4万5千人を超える。『「親力」で決まる!』(宝島社)などベストセラー多数。全国各地での講演会も大人気。ブログ「親力講座」も毎日更新中。講演依頼とメルマガ登録は「親力」で検索してホームページから。